トランキライザー
その日は山猫の頼みで、とある会合に代理で出席した帰りだった。
いつも通りに店へゆき、酒と食事を頼んだ。
けれど喉を通らない。
どんどんと具合が悪くなってゆく。
結局、頼んだ食事を食べきれず、帰宅した。
理由はよくわからない。
疲れていたのかもしれない。
それ以外に心当たりがあるとするなら、会合の内容と、知らない人ばかりが居る場所で緊張し、気疲れしすぎたぐらいだった。
山猫にLINEを送って、布団の中で鬱々としていた。
あしたは仕事なのに、眠れない。
会合の毒気にあてられたみたいだ。
深夜、店を終わらせた山猫が心配して家に来てくれた。
自分もくたくただろうに、私のために無理をしてくれたのだ。
来た途端、何も言わずにただ抱き締めてくれた。
「何も言わなくていい。これだけで、おまえがどれだけくたくたで無理してきたかわかるよ」
なんだかもう、それだけでよかった。
半分魂が抜けたみたいに頭がぼんやりしていたけれど、何もかもが報われたような気がした。
山猫は体温が低いから、抱き合うといつも、少しひんやりしている。
でもその日はすごくあたたかくて、ああ、守られているなあと思った。
守られたくて、慈しんでいたわってほしくて、でも誰にもそれを言えないでいて、独りで薬と剃刀をトランキライザー代わりにがたがたと震えていた夜がやっと、やっと明けたような気持ちになれた。
いつもさみしくてうつろだったものを、彼だけが充たしてくれる。