夜のおすそ分け

今日は疲れたからまっすぐ帰るよ、とメールが来た。

そうか、おやすみ。と返事をして、タバコに火をつけた。

 

途端に、夜が蒼暗くて寄る辺ないものになって、途方に暮れそうになる。

山猫とはいつも夜にばかり話をして、一緒にいた。

明るい陽の光の下は、私たちの時間ではない。

わたしの仕事が休みの日はドライブに連れて行ってもらったり、お昼を一緒に食べたりもするけれど、それもこの1年くらいのことで、山猫といえば夜の空気、色、気配ばかりがする。

無限に膨張して、わずかな光で色を変え、掴みどころのない山猫に、夜はあまりにも似合いすぎているんだろう。

 

今は夜だ。真夜中の、空の色が一番暗闇に近い時間。

それなのに山猫がいないというのはひどく心細くて寂しくて、私は困ってしまう。

 

けれど彼にも疲れる時はあって、一人になりたい時もあって、そんな彼の心を、自分が寂しいから、という理由で踏みにじるのは、してはいけないことだ。

 

メール画面をぼんやり見ながらタバコを一本吸って、私は山猫に電話をかけた。

そんな事言わないで来てよ、なんて言わない。

そのために、少しだけ、彼の声が聞きたかった。

 

電話をしたらすぐに出てくれて、「今ね、ケサランパサランをいっぱい捕まえたよ。手の中いっぱいにいるよ」、と教えてくれた。

そして今日の話を少しだけして、お家に着いたら写真を送ってあげる、おやすみなさい、と電話を切った。

 

会話の内容はなんでもいい。

ほんの少しだけ、ヤマネコの夜をもらえたから、今日もきちんと眠れるだろう。

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