海(続き)

本当に海へ連れていってもらった。

彼の息子と3人で、朝早くに出て、海へ来てしまった。

 

強くうねる波のリズムは複雑で、今ここにいる3人の関係性を示唆してるみたいでいやらしい。

しかし思ったより海の水は冷たくなくて、ボディボードをやる彼と息子を横目に、私はひとり、浮き輪で海を漂っていた。

 

陽はほとんど差さなくて、砂浜の砂がとてもあたたかい。

寒い日だったけど、思いのほか海のなかはあたたかくて、ほとんどの時間を、私は海の中で過ごした。

波の向こう、水平線の袂へどうしようもなく呼ばれている気がして、沖へ沖へと行きたかった。
でも波に拒まれて、私は何度も何度も、波に殴られるように岸へ流される。

遠くに、浜へ上がって休憩している彼と息子の姿が見える。

何を話しているのだろう。

 

ふたりが遊ぶ姿はたぶん、私には永遠に手に入れられないものだ。

私が結婚することと子供を産む可能性は限りなく低いだろう。

その引換に彼から得たものはいくつあるだろう。

そんなにたくさんはなくていいな。

片手で持てるくらいでいい。

空いたもう片方の手で、私は彼の手を握っていたいから。

 

波が来る。

寄せては返し、寄せては返して、私たちを思いもよらないどこかへ流してしまう。

いつか、鼓膜に流し込まれた言葉だけ、大事にしまっておきたい。

「お前と2人、海辺で暮らすのもいいな」って、そう言ってくれた言葉を。

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